SEOUL · JEONGDONG
エレナと歩くソウル市立美術館 西小門本館、『リン・ハーシュマン・リーソン:私の[私]たち』と旧大法院の建物
市庁駅10番出口から歩いて4分、2027年2月21日まで無料で開かれるメディアアート展を、六つのセクションの順番どおりに見る方法
場面の指示書きをいつも角括弧の中に書いてきたエレナは、展示タイトルの角括弧を見てこの展示を選びました。映画監督でもある作家の60年余りにわたる約200点の作品と、裁判所として建てられ、いくつもの名前をたどってきた建物が、そろって彼女を待っていました。

行き方
エレナの手帳では、角括弧の使い道がずっと前から決まっています。スペインから来た27歳のエレナは、ドラマや映画の場面を実際の場所に重ねて読む人で、場面ごとに番号を振り、カメラがどこから見ているかといった指示書きを「[クローズアップ]」、「[画面外の声]」のように角括弧の中に書き込みます。だからソウル市立美術館の展示一覧で『リン・ハーシュマン・リーソン:私の[私]たち』というタイトルを見たとき、エレナの目は「私」よりも、それを囲む括弧のほうへ先に向かいました。自分の手帳で指示書きを入れていた記号が、展示タイトルのど真ん中に入っていたのです。

タイトルを開いたエレナは、作家紹介の1行目でもう一度手を止めます。リン・ハーシュマン・リーソン(1941〜)はアメリカのベテランの女性メディアアーティストで映画監督でもあり、今回はその作家にとってアジアで初めての美術館個展です。ドローイングや絵画、写真、彫刻から、メディアインスタレーション、映像、映画まで、約200点で60年余りの仕事をひとところに集めています。場面を読みに旅をする人にとって、映画監督の60年を一つの建物の中で歩いてたどれる機会はそうそうなく、エレナはその場で次の金曜日の午後を空けました。
今日エレナが向かうのは、ソウル市中区徳寿宮キル61にあるソウル市立美術館 西小門本館です。『私の[私]たち』は2026年10月21日から2027年2月21日まで、この建物の2階展示室と3階展示室、3階クリスタルギャラリーで開かれていて、観覧は無料です。物語は2号線 市庁駅10番出口から徳寿宮キルを通って美術館の前庭に着くところから始まり、裁判所として建てられた建物の来歴を読み、六つのセクションを番号順に歩いたあと、3階の光が入る部屋を抜けて、夕方にもう一度前庭へ出るところまで続きます。何時に閉まるのか、何を見落としやすいのかも、エレナの手帳の順番に沿って書きました。
エレナが金曜日を選んだのにも理由があります。この美術館は火曜から木曜までは夜8時、金曜日は夜9時まで開いていますが、11月から2月までの冬季は、土・日曜と祝日は夕方6時に閉まります。入場は観覧終了の1時間前までなので、週末の午後遅くに着くと、思ったより時間に余裕がありません。約200点を急がずに見たかったエレナは、いちばん遅くまで開いている金曜日の午後に予定を入れ、手帳の最初のページに「[金曜日、21時まで]」と書きました。
The Cue
ソウル市立美術館 西小門本館(ソウル市中区徳寿宮キル61)で、2027年2月21日まで『リン・ハーシュマン・リーソン:私の[私]たち』が開かれています。アメリカのメディアアーティストで映画監督のリン・ハーシュマン・リーソンにとってアジア初の美術館個展で、約200点を六つのセクションに分け、2階・3階の展示室と3階のクリスタルギャラリーで紹介しています。観覧は無料です。火〜木は20時、金は21時まで開き、11〜2月の土・日・祝日は18時に閉まります。2号線 市庁駅10番出口から徒歩4分(260m)です。
- どこで: ソウル市立美術館 西小門本館、ソウル市中区徳寿宮キル61。展示は2階展示室・3階展示室・3階クリスタルギャラリーです。
- 会期・料金: 2026年10月21日〜2027年2月21日。この展示は無料です。
- 地下鉄: 2号線 市庁駅10番出口から、ソウル中央地方法院 中部登記所の方向へ260m(徒歩4分)。1号線なら市庁駅1番出口から380m(6分)。
- 時間: 火〜木10:00〜20:00、金10:00〜21:00、土・日・祝日は11〜2月10:00〜18:00。入場は観覧終了の1時間前まで。
- 休館日: 毎週月曜日と1月1日(月曜日が祝日の場合は開館します)。
- ドーセント: 火〜日の15時。
- 車で行くなら: 美術館の駐車場が狭く、一般の観覧車両は駐車が難しいです。地下鉄かバスで来ましょう。
- 問い合わせ: 観覧案内デスク 02-2124-8868。
市庁駅10番出口から徳寿宮キルを通って西小門本館の前庭へ
金曜日の午後2時少し前、エレナは2号線の市庁駅で降ります。美術館が案内している道のうち、いちばん近いのは10番出口からソウル中央地方法院 中部登記所の方向へ260m、歩いて4分のルートです。1号線なら市庁駅1番出口から同じ方向へ380m・6分、5号線なら西大門駅5番出口か光化門駅6番出口から約900m、13分ほどかかります。エレナは出口を出る前に、地図アプリに「徳寿宮キル61」を入れておきました。
バスなら172・472・600・602番か7019番に乗り、「市庁・西小門庁舎」のバス停で降ります。美術館の駐車場は狭く、一般の観覧車両は停めにくいので、はじめから地下鉄かバスで計画しておくほうが気が楽です。エレナは荷物を減らそうと、バッグに手帳と鉛筆、薄手の上着を一枚だけ入れてきました。展示が二つの階にまたがるときは、身軽なほうが長く歩けると、これまでの旅で覚えたからです。

美術館は、徳寿宮キルに沿って傾斜のある坂道を上っていくと現れます。古い木々と花が調和した屋外の庭が塀なしで開けているので、坂を上るうちに、いつの間にか前庭の中に入っています。坂の上で赤みを帯びた石造りの建物がひとつの場面のように視界に入った瞬間、エレナは歩く速さを落としました。
前庭から見ると、建物正面の中央では灰色の花崗岩の三つのアーチが玄関をつくり、その上にアーチ窓が並んでいます。左右の翼にも縦長のアーチ窓が連なり、左側にはガラス張りの現代的な建物がつながっています。広い石畳の前庭と低い階段の前で、エレナはすぐには入らず、手帳に建物の正面を簡単な線で写し取ります。古い正面の横に新しい建物がつながった姿が、今日見る展示のタイトルとどこか似ているように思えたからです。
裁判所から大法院、そして美術館へ、西小門本館がたどった名前
中に入る前に、エレナはまず建物の来歴を読みます。この場所にはもともと韓国で最初の裁判所である平理院(漢城裁判所)があり、1928年に日本の統治下で京城裁判所として今の建物が建てられました。光復のあとは大法院として使われ、1995年に大法院が瑞草洞へ移ったのち、2002年からソウル市立美術館になっています。エレナは手帳に、名前を一つずつ角括弧に入れて書きました。「[平理院] → [京城裁判所] → [大法院] → [ソウル市立美術館]」。

書いてみると、一行がずいぶん長くなりました。同じ場所が時代ごとに違う名前で呼ばれ、判決を下していた建物が、いまは作品を見に来る建物になっているのですから。エレナは今日見る展示のタイトル「私の[私]たち」を思い浮かべ、この建物にも角括弧に入る名前がいくつもあると考えます。名前が変わってきたあいだも、正面だけは旧大法院の建物の姿を残していることを、エレナはその行の下に別に書き留めました。
この建物は、ルネサンス様式の旧大法院の建物の前面部と、現代的な建物の後面部が一体につながった造りです。旧大法院庁舎の象徴性がよく表れ、建築的・歴史的な価値があると評価されて、2006年に登録文化財第237号に指定されました。エレナは手帳の正面スケッチの後ろに四角形をひとつ描き足し、二つのあいだに空白を残します。古いものと新しいものが出会うそのあいだが実際にどうなっているのかは、中に入ってから埋めることにしました。
ガラス天井の下の空間とロビー、荷物を預けて椅子を借りる場所
玄関を抜けると、エレナが残しておいた空白の答えがすぐに現れます。建物の古い前面部とロビーのあいだには、美術館に入って最初に出会う空間があり、ここの天井はガラスになっていて、光が空間全体に入ってきます。美術館はこの空間を、過去と現在の時間の差が光で表された場所だと説明しています。エレナは顔を上げてしばらくガラス天井を見上げ、手帳の空白に、上から降りてくる短い線を何本も引きました。

ロビーは天井が高く開けた空間なので、初めて入るとどちらへ進めばいいのか、少しきょろきょろしてしまいます。エレナもその場でくるりと一回りして方向を探しました。展示は2階展示室と3階展示室、3階クリスタルギャラリーにまたがっているので、まずは上の階へ上がれば大丈夫です。エレベーターが動いていて車いすも借りられるので、階段がきつい人でも階の行き来はそれほど大変ではありません。
上がる前に、エレナは荷物を整理します。美術館には持ち物を預けられるロッカーがあり、上着を入れておけば二つの階をずっと身軽に歩けます。折りたたみ椅子のミュージアムチェアも観覧中に自由に使えるので、映像作品の前で長く座っていたいなら、ひとつ持っていくといいです。映像の多い展示だと知っていたエレナは、迷わず椅子をひとつ腕に掛けました。
「私の[私]たち」とFirst Person Plural、二つの展示タイトルを並べて読む
展示室の前で、エレナはタイトルをもう一度読みます。韓国語のタイトル「私の[私]たち」の角括弧はプログラミングで使う記号で、この記号によって、技術の環境の中で複製され、絶えず組み直される複数の自己を表しています。エレナの手帳で角括弧が画面の指示書きだったなら、このタイトルではコンピューターの言葉だったわけです。同じ記号を別々の言葉として読んでいたのがおもしろくて、エレナは最初のページの角括弧の横に、小さく「[コード]」と書き足しました。
英語のタイトルは「First Person Plural」です。作家が1984年から続けてきた映像作品〈電子日記〉シリーズの3作目のタイトルから借りたもので、英語の文法では一人称複数、つまり「私たち(we)」を意味します。「私」を複数にした韓国語のタイトルと、「私たち」という英語のタイトルが同じ展示を指しているので、エレナはひとつの場面を二つの台本で読んでいるような気分になりました。手帳には二つのタイトルを上下に並べて書き、そのあいだに二つをつなぐ短い縦線を一本だけ引きます。

この展示は、ソウル市立美術館の2026年の展示テーマ「技術」に応えて企画され、技術とメディアが私たちのアイデンティティにどう影響するのかという問いを土台にしています。AIの時代に「私は誰で、どこまでなのか」を問いかける展示でもあります。エレナはこの問いを自分なりに言い換えて、手帳に書き写しました。「画面の中の人物は、どこまでが俳優で、どこからが役なのか」。場面を読む人なら一度は抱いたことのある問いなので、エレナは今日歩くあいだ、ずっとこの一行を持ち歩くことにしました。
「カメレオンの告白」から「編集された未来」まで、六つのセクションを番号順に歩く
展示は六つのセクションに分かれています。1 「カメレオンの告白」、2 「ペルソナをつくる」、3 「肉体と機械」、4 「スクリーン、応答する」、5 「データが愛になるとき」、6 「編集された未来」です。エレナはいつものように場面番号を新しく振る代わりに、今回はセクション番号をそのまま場面番号として使うことにしました。手帳に6本の線を引き、行の頭ごとにセクション名を角括弧に入れて書くと、一本のシナリオの目次のようなページができあがります。
6行を上から下へ読むと、物語の流れが見えてきます。生まれ持ったアイデンティティが社会的な関係と機械を経て広がり、メディアとネットワークでつながり、ついには遺伝子工学によって生物学的に編集される段階にまで至る順番です。エレナはこの流れを「私 → 関係 → 機械 → 画面 → データ → 編集」という短い矢印にまとめました。セクションがどの階にあるかより、この順番のほうが大事だと考え、階ごとに案内を見ながら番号を一つずつ探していくことにします。

ドーセントの解説は、火曜から日曜までの午後3時にあります。エレナは2時を少し過ぎて展示室に入ったので、1周目はひとりで番号順に歩き、解説の時間は手帳の隅に書いておくことにしました。先にひとりで歩いてみると、どこで長く過ごしたいかが見えてくるので、解説はそのあとに聞いても遅くありません。初めて行く人は、3時の解説を観覧の前か後に置いて、一日の順番を組んでみると楽です。
2階展示室では、エレナは作品の合間に建物も一緒に見ていきます。この階の展示室は天井の中央に開口部があり、上の3階展示室の天井から入る自然光を下まで引き込んで、室内の照明でその光を補っています。床は木のブロックで仕上げられていて、天井の高さは3.6mです。上の階の光が下の階まで降りてくる造りが、階を分けてもひとつの流れでつながるこの展示に似ていると思いながら、エレナはその断面を手帳の片隅に描きました。
〈呼吸する機械〉とウェブカメラ人形〈ティリー〉〈サイバーロベルタ〉、見る人が見られる作品
展示紹介に出てくる作品のうち、エレナが最初に手帳に書き写したのは、1960年代後半の〈呼吸する機械〉シリーズでした。観覧者が作品に近づくとセンサーがそれを感知して、作家の息づかいや笑い声、“Why are you looking at me?”といった作家の声が聞こえてくる作品です。エレナはその一文を読みながら、思わず笑ってしまいます。いつも画面を見る側だった自分が、ここでは作品から「どうして見ているの」と問われる側になるのが、不思議でもあり、おもしろくもあったからです。
同じ問いは、〈ティリー〉と〈サイバーロベルタ〉でもう一度続きます。二体の人形はどちらも左目にビデオカメラ、右目にウェブカメラを付けていて、撮った映像を20秒ごとにそれぞれの人形のウェブサイトにアップしています。〈サイバーロベルタ〉の制作年が1996/2026と二つ書かれていることも、エレナの目に留まりました。エレナは手帳に「[観客 = 被写体]」と書き、今日は見る人と見られる人が何度も入れ替わりそうだと思いました。

1980年代の〈ヒーロー・サンドイッチ〉は、また別のやり方で「私」を重ねます。有名人のネガフィルムを重ねて焼き付け、その上に絵を描き足して、二人の人物をひとつに合わせた作品です。フィルムを重ねると聞いて、エレナは映画で二つの場面を重ねながら切り替えるオーバーラップを思い出し、この説明を二度読みました。ひとつの顔の中に二人がいるという考えは、展示室の前で手帳に書いておいた問い、俳優と役の境目にもそのままつながっていきます。
〈ディープ・コンタクト〉〈ローナ〉〈エージェント・ルビー〉、韓国語で初めて出会うインタラクティブ作品と〈電子日記〉第1〜6話
エレナがこの展示を選んだいちばんの理由は、実は別にありました。見る人が自分で物語を選ぶ作品です。1979年から1984年にかけて制作された〈ローナ〉は、レーザーディスクの技術で観覧者のインタラクティブな参加を試みた最初の作品で、観覧者はリモコンでローナの選択を導きながら、36のシーケンスを進んでいきます。場面番号を順番に振ってきたエレナにとって、見る人ごとに場面の順番が変わる映画は、それ自体が新しい問いでした。
1984年の〈ディープ・コンタクト〉は、タッチスクリーンで観覧者が物語の展開に入り込む作品です。画面の中のマリオンという女性が観覧者に画面に触れるよう誘い、物語は57の異なるエピソードに分かれています。今回の展示では、1980年代初めのコンピューター画面の雰囲気に合うハングルの書体を選んで使っています。書体まで時代に合わせて選んだというくだりで、エレナは古い映画をあらためて紹介するとき、字幕のフォントひとつにも長く悩む人たちのことを思い浮かべました。
これらの作品が今回特別なのには、もうひとつ理由があります。作家のインタラクティブ・メディア作品が英語以外の言語で提供されるのは今回が初めてで、代表的なインタラクティブ作品3点の韓国語版が、この展示で初めて公開されました。英語で進む〈ローナ〉には、韓国の観覧者のためにハングルの字幕が付きました。1998年から2002年にかけて制作されたウェブベースのAIチャットボット〈エージェント・ルビー〉は、会話に合わせて眉をひそめたり口をとがらせたりして表情を変えますが、英語でしか会話しないよう設計されているため、今回の展示ではハングルの字幕ウィンドウが加えられています。
このくだりを読んで、エレナは手帳に小さな表をひとつ描きます。作品名と、観覧者が手にするもの、場面の数を欄に分けた表です。〈ディープ・コンタクト〉の欄には「タッチスクリーン、57」、〈ローナ〉の欄には「リモコン、36」、〈エージェント・ルビー〉の欄には「会話」と書きました。ソウルで初めて開かれるこの回顧展に韓国語が一緒に付いたことが、エレナにはこの展示をぜひここで見るべき理由のように感じられました。

セクション4「スクリーン、応答する」では、〈電子日記〉も上映されています。作家が1984年から続けてきた映像作品で、英語のタイトルFirst Person Pluralを借りてきた、まさにそのシリーズです。今回の展示ではこのセクションで第1話から第6話までを上映し、最後の第7話は、展示の最後のセクション「編集された未来」で紹介しています。初めて来た人はここでシリーズが終わったと思って通り過ぎやすいので、第7話は最後のセクションに別にあることを覚えておきましょう。
エレナはこの配置が気に入りました。ひとつのシリーズを二か所に分けて置けば、同じ日記を二回に分けて読むことになるからです。エレナは4行目に「[1–6]」、6行目に「[7]」と書き、二つの行を長い矢印で結びました。6話を見て、ほかのセクションを通り抜けてから最後の話に出会えば、そのあいだに歩いた時間が日記の余白のように挟まるはずだと考えます。ひとつの場面を一度に読み切らず、わざと二回に分けて読むのは、エレナが場所を歩くたびに続けてきた習慣でもあります。
2階から3階へ上る木の階段、天窓のある展示室と天井高10mのクリスタルギャラリー
3階へ上がるとき、エレナはエレベーターではなく木の階段を選びました。2階から3階へ上るこの木の階段からは、建物の前面部と、ガラスでつながる室内空間の独特の味わいを一緒に見ることができます。自然光がたっぷり入る明るい階段なので、写真を撮る人が多い場所でもあります。エレナは階段の途中で一度立ち止まり、午後に前庭で描いた正面のスケッチと、いま目の前にあるガラス越しの風景を見比べました。

3階でエレナが長く立っていたのは、建物の右側の展示室でした。西小門本館の3階右側の展示室は、すべての展示室の中で天井がいちばん高い約6mで、天井の中央に設けられたピラミッド形の天窓から、自然光が展示室の中央に入ってきます。2階の天井の開口部から降りていた光がまさにこの3階の天井から始まっていると知って、エレナは2階で描いた断面の上に、もう一層を描き足しました。これでやっと、上から下までつながる光の道が手帳の1ページにすべて収まります。
クリスタルギャラリーは、3階の中央展示室とロビーのあいだにある小さな展示室です。小さいながらも天井の高さが約10mある台形で、展示室の内壁と外側のあいだの空間に照明器具を入れて、かたまり全体が光を放つように設計されています。主要な作品や模型、映像、VR、ARなどを使った作品を展示する場所だという説明を読んで、エレナはこの部屋を手帳に「[光の箱]」と書きました。映写室の中でしか光っていなかった光を、部屋がまるごと抱えているように思えたからです。

3階の展示室のあいだには、美術専門の書店もあります。アーティストブックや美術館の展示図録、美術批評、美術理論書といった本を扱う店なので、展示を見る途中にひと休みするのにちょうどいい場所です。エレナは書架のあいだをゆっくり歩きながら、映像や映画についての本を何冊か手に取って表紙を眺めました。本棚の前で休むうちに足の疲れがほぐれて、最後のセクションまでもう一度歩く力が戻ってきます。
「編集された未来」の〈蛍光の猫〉と〈電子日記〉第7話、最後のセクションで閉じる矢印
セクション5「データが愛になるとき」を過ぎてセクション6「編集された未来」に着くと、紹介文に出てきた〈蛍光の猫〉という名前が目に入りました。クラゲで見つかった緑色の蛍光タンパク質をつくる遺伝子を猫のゲノムに導入して、蛍光を帯びるようにした科学的な事例を扱った作品です。6行の矢印の最後の言葉、「編集」が何を意味していたのかが、ここではっきりしました。映画で編集といえば場面を切ってつなぐことですが、このセクションでは、その言葉の範囲が生命の設計図にまで広がっていました。

エレナはこのセクションで、取っておいた〈電子日記〉第7話を見つけて折りたたみ椅子を広げます。4行目から始まった矢印を、6行目で閉じる番です。第1話から第6話までと最後の第7話のあいだには、五つ目のセクションと3階の光が入る部屋、書店の前での短い休憩が挟まっていて、エレナにはその時間が日記と日記のあいだに置かれた長い余白のように感じられました。手帳の矢印の先に小さな丸を描き入れてようやく、エレナは今日の6行がすべて埋まったことに気づきます。
金曜日の夕方にもう一度ガラス天井の空間へ、徳寿宮キルを下って市庁駅に戻る道
展示室を出たとき、外はもう日が暮れていました。金曜日なので美術館は夜9時まで開いていて、入場は8時まで受け付けているため、エレナのように午後に入っても急ぐ必要はありません。ただ、同じ11月でも土曜・日曜と祝日は夕方6時に閉まり、入場は5時までなので、週末に来るなら昼の早いうちに入るほうが安心です。エレナは階段を下りて、午後に最初に通ったガラス天井の下の空間にもう一度立ちました。
昼には光が降り注いでいたガラス天井が、夕方になると暗い空を映しています。同じ場所を一日に二度通ってみて、過去と現在の時間の差を光で表したというこの空間の説明が、ようやく体で実感できました。エレナは午後に上から降りてくる線を引いた空白の隣に、今度は暗い枠をもうひとつ描きます。ひとつの場所を二度読んではじめてひとつの場面ができあがるというエレナの習慣が、この建物ではガラス天井ひとつで証明されたことになりました。
出る前に、エレナは関連プログラムの情報も確かめておきました。展示に関連したワークショップ〈私ではない[私]の顔〉が11月12日から28日まで開かれ、参加者の募集は11月10日までです。ソウル・アートシネマで長編映画を上映する関連プログラムも用意されていて、映画監督としての作家をもっと見たいエレナには、次の場面がもうひとつできたことになります。同じ建物では『技術の裾野:境界に立つ場面』も11月22日まで開かれているので、時間に余裕があれば一緒に回ってみるのもいいでしょう。

前庭に出たエレナは、振り返って明かりのついた正面をもう一度眺めました。午後に書いた名前の行、平理院と京城裁判所と大法院とソウル市立美術館が頭に浮かび、エレナはその行の最後に角括弧をもうひとつ開いて、「[今日の観客]」と書きます。この建物がたどってきた名前の中で、いまの名前をつくっているのは、結局こうして出入りする人たちなのだと思えたからです。そして徳寿宮キルのゆるやかな坂をゆっくり下り、来るときに出てきた市庁駅10番出口のほうへ歩き出しました。
市庁駅へ歩くあいだ、エレナは手帳を最初からめくってみました。指示書きを入れる角括弧で始まった手帳は、いつの間にか建物の名前と二つのタイトル、六つのセクション、人形の目とリモコン、取っておいた日記の第7話まで、角括弧でいっぱいになっています。そこには、建物を読んでいたエレナ、作品に問いかけられたエレナ、矢印を最後に閉じたエレナが順番に入っていました。エレナは最後のページに英語のタイトルをもう一度書いて、小さく笑います。今日一日の一人称は、ずいぶん大勢だったのですから。
Common Mistakes — よくある失敗
11月の週末、午後遅くに着く
11〜2月の冬季は、土・日・祝日は18時に閉まり、入場は1時間前の17時までです。週末なら早めに訪れ、ゆっくり見たいなら21時まで開いている金曜日に行ってみましょう。
月曜日に行く
毎週月曜日は休館です(月曜日が祝日の場合は開館)。1月1日も休みです。
〈電子日記〉をセクション4で全部見たと思う
「スクリーン、応答する」で上映されるのは第1〜6話で、最後の第7話は最後のセクション「編集された未来」で上映しています。
車で行く
美術館の駐車場が狭く、一般の観覧車両は駐車が難しいです。市庁駅10番出口から歩いて4分です。
映像の前でずっと立っている
折りたたみ椅子のミュージアムチェアを観覧中に自由に使えます。映像の長いセクションでは、ひとつ持って座って見ましょう。
FAQ — よくある質問
どの駅のどの出口から行けばいいですか?
2号線 市庁駅10番出口から、ソウル中央地方法院 中部登記所の方向へ260m、歩いて4分です。1号線は市庁駅1番出口から380m(6分)です。住所はソウル市中区徳寿宮キル61です。
観覧料はかかりますか?
『リン・ハーシュマン・リーソン:私の[私]たち』は無料です。
何時まで見られますか?
火〜木は20時、金は21時まで開いていて、11〜2月の土・日・祝日は18時に閉まります。入場は観覧終了の1時間前までです。
展示は何階ですか?
西小門本館の2階展示室と3階展示室、3階クリスタルギャラリーです。
解説は聞けますか?
ドーセントの解説が火曜から日曜までの午後3時にあります。
英語の作品に韓国語はありますか?
〈ローナ〉にはハングルの字幕が、英語でしか会話しない〈エージェント・ルビー〉にはハングルの字幕ウィンドウが加えられています。代表的なインタラクティブ作品3点の韓国語版は、この展示で初めて公開されました。
関連プログラムはありますか?
ワークショップ〈私ではない[私]の顔〉が11月12〜28日に開かれます(募集は11月10日まで)。ソウル・アートシネマでの長編映画上映も関連プログラムとして用意されています。
問い合わせ先はどこですか?
観覧案内デスク 02-2124-8868、美術館の代表番号 02-2124-8800です。
Recap — 出発前の30秒
- 2号線 市庁駅10番出口 → 徒歩4分(260m) → ソウル市立美術館 西小門本館(徳寿宮キル61)
- 『私の[私]たち』は2027年2月21日まで、無料 — 2階・3階展示室、3階クリスタルギャラリー
- 火〜木20時 · 金21時 · 11〜2月の土・日・祝日18時、入場は終了の1時間前まで、月曜休館
- 六つのセクションを番号順に、〈電子日記〉第7話は最後のセクションに
- ドーセントは火〜日15時、ミュージアムチェア・ロッカーが使えます
参考資料
- ソウル市立美術館 — 『リン・ハーシュマン・リーソン』展 展示詳細会期2026年10月21日〜2027年2月21日 · 西小門本館2階・3階展示室と3階クリスタルギャラリー · 観覧無料 · 開館時間・入場締切・休館日 · ドーセント火〜日15時 · 作家紹介と約200点 · 2026年の展示テーマ「技術」 · 六つのセクションと流れ · 韓国語・英語タイトルの意味 · 〈呼吸する機械〉・〈ティリー〉・〈サイバーロベルタ〉・〈ヒーロー・サンドイッチ〉・〈ディープ・コンタクト〉・〈ローナ〉・〈エージェント・ルビー〉・〈蛍光の猫〉の説明 · 〈電子日記〉第1〜6話と第7話の上映配置 · 韓国語字幕 · 問い合わせ先確認 2026-10-27
- ソウル市立美術館 — 訪問案内(西小門本館)地下鉄出口ごとの距離と徒歩時間(2号線市庁駅10番260m・4分、1号線市庁駅1番380m・6分、5号線約900m・13分) · バス路線と停留所 · 住所 · 駐車案内 · 開館時間 · 平理院の跡地・1928年の京城裁判所・大法院・2002年からの美術館と登録文化財第237号 · 前面部と後面部の構成 · ガラス天井の空間 · 木の階段 · 2階・3階展示室とクリスタルギャラリー · 美術書店 · ロッカー・ミュージアムチェア・車いす・エレベーター · 屋外の庭 · 関連ワークショップ · 代表番号確認 2026-10-27
- ソウル市立美術館 報道資料(2026年10月20日) — 『リン・ハーシュマン・リーソン』展 開催アジア初の美術館個展 · 約200点で60年余りの作業 · 代表的なインタラクティブ作品3点の韓国語版を初公開 · 「私は誰で、どこまでなのか」 · ソウル・アートシネマでの長編映画上映の関連プログラム確認 2026-10-27
- ソウル市立美術館 — 現在の展示西小門本館で同時に開かれているもう一つの展示確認 2026-10-27
- ソウル市立美術館 — ガナアートコレクション展 展示詳細会期2026年4月16日〜11月22日確認 2026-10-27
AIキャラクターと一緒に歩くソウルの物語です。スポット情報は公開資料で確認し、写真はAIで制作した演出画像です。 AI活用について


